連載 取材レポート:これからのスポーツ医療 14

科学に精通し、かつ自立したスポーツ医療を

――勝浦整形外科クリニック・勝浦スポーツクラブ

去る7月3日、千葉県勝浦市にある勝浦整形外科クリニックは、院内に設けていた医療法第42条施設・勝浦リコンディショニングセンターを閉館し、隣接地に勝浦スポーツクラブと名を改めオープンした。有馬三郎院長、クラブの運営を委託されている(株)国際スポーツ医科学研究所の祢津雅彦代表に開設の意義と今後の展望を聞いた。

開業の経緯

 JR外房線勝浦駅から国道297号線沿いに車で走ることおよそ4分、緩やかに続く坂道を登っていくと左手に勝浦整形外科クリニックが見えてくる。2室の手術室、19床の病床およびリハビリスペースを備えた同院は、整形外科、リウマチ科、内科に加えスポーツ医学を診療の柱とした医療機関である。海と山に囲まれた自然豊かな街に有馬院長が開業したのは1998年。同市にある国際武道大学の非常勤講師を務めたという縁もあったが、その理由を次のように話す。

「以前務めていた亀田総合病院で武道大の選手を診る機会があり、学生トレーナーがよく一緒に来院していました。そこで驚いたのは、彼らがスポーツ科学に精通していることに加え、医学的な会話が通じたということです。そして、再診したときに選手の症状は確実によくなっていた。選手が復帰するまでの過程でリハビリやケガの再発を管理するトレーナーがいないとスポーツ医療は成り立たない。そう痛感しました。しかし、武道大には医学部がないため、スポーツ現場には出ていましたが、病院での研修ができず、手術やリハビリテーションなどの見学ができなかった。そこで、手術を見学でき、かつ学生トレーナーがレントゲン写真の読影やリハビリテーションなどの研修ができるクリニックとして当院を開院しました」

 有馬院長は元々陸上選手で、全日本インカレに出場した経験を持つ。その競技者生活でスポーツは「科学」であり「自力本願」であることを学んだそうだが、当時トレーナーはいなかった。競技生活での経験、そして学生トレーナーと関わりを持ったことが勝浦市での開院へとつながっている。さながら国際武道大学の“附属病院”と言えなくもないが、今では学生の研修は患者(ケガした学生)にも浸透し、患者側から手術見学などを拒絶するケースはまずないという。

オープン4日で60人の新規会員

 同院に42条施設が設けられたのは03年のこと。医療法第42条は95年に制定されているが、医療経営の厳しさは今と同様で、当時においても42条施設はあまり普及していなかった。それでも着手したのは、スポーツ整形外科を標榜する以上アスレティックリハビリテーションやコンディショニングが不可欠との考えから、トレーナーをスタッフとして抱えていたためである。「医学に加えスポーツ科学の知識を持っている彼らの能力を眠らせておくのはもったいない。理学療法の枠を超えた活動をしてほしかった」と有馬院長は振り返る。
 4年目を迎え隣接地に移った勝浦スポーツクラブでは、会員に対してまず1時間ほどかけてメディカルチェックとフィードバックを実施、血液検査、骨密度、動脈硬化、心電図等の検査もオプションとして勝浦整形外科クリニックで受けることができる。運動指導は基本的にパーソナル対応であり、個々の特徴をより細部まで調べるため必要に応じて水中体重計、呼気ガス分析器を導入、そのうえで一人ひとりに対してプログラムを処方している。
オープン4日後の7月7日に取材のため同クラブに伺ったが、それまで会員だった75人に加え、新たに61人が会員となっていた。利用者は50〜60代の中高年を想定していたが、実際に30〜40代が目立つという。

クラブを拠点にトレーナーの自立を

 03年の42条施設立ち上げの際、同院のトレーナーが株式会社を組織、その運営を委託する形をとっている。その組織が、現在も運営を担っている国際スポーツ医科学研究所である。それはなぜか。もともと同院の理学療法士でありトレーナーであった祢津代表は言う。
「現行の医療法を考えると、病院内でのトレーナー活動はボランティアに近いものです。1病院の地域貢献にはなりますが、その活動は病院頼みであり、もし病院が潰れてしまったら続けられません。トレーナーの職域を確保していくうえでもっと自立して広くかつ深く社会貢献することを追求していく必要があると考え、株式会社を設立しました」
 研究所の活動にはスポーツ選手・チームへのサポートがあり、サッカーのジュニアユース日本代表、FC東京バレーボールチームなどと年間契約を交わしている。42条運動施設の運営は職域を確保するうえでの拠点として位置づけ、今回の移転は院内の活動スペースが狭かったことも理由の1つであるが、勝浦スポーツクラブとなり200人規模の会員に対してトレーナー活動がより積極的に行えるようなった。研究所では、これまで3年間で一度も赤字に転落したことがなく、5人で始めたスタッフは9人に増え、いずれも正社員である。一方で、プロ意識を持たせるために社員のボランティア活動を禁止し、勝浦スポーツクラブ開設では初期投資を抑えるためマシンの多くを中古で揃えるなどコスト意識は高い。
 また、組織化してトレーナーが動くことで質の高いサービスを提供できるとともに、トレーナー派遣では2人以上が関わりを持つことを意識し、トレーナー自身の病気など不測の事態でもチームを離れることができるようになった。トレーナー派遣によるトップアスリートのケアと、施設による一般会員のケアを両立できているのもまた、組織として動いているからである。現在はスタッフの育成にも力を入れており、当初は経験・資格を有する人を探し歩いたそうだが、今では資格の有無を気にせず、祢津代表曰く「ハートのある人間」を優先して採用している。実際に、日体協ATの受験を前にしたスタッフも多数おり、「トレーナーとして派遣するまでには時間がかかりますよ」と笑うが、職域確保への意欲が伝わってくる。

目指すはスポーツ医療の自立

 勝浦スポーツクラブには、純粋に地域の健康増進施設としてだけでなく、トレーナーの職域確保という意味においても成功が期待される。有馬院長は「予防医学は患者さんの自立が必要で、そのためにはスポーツ医療を提供するわれわれも自立しないといけない」を言い、さらに続ける。
「診療点数が上がることを期待できない状況ですが、それでもあえて新設したのは、経営が成り立つということを世間にアピールしたいからです。地域でうまく活動できていたとしても、赤字であれば他の医療機関が続いてくれません。成功することがまさに今後の課題で、その成果を2、3年のうちに出したい。そして、スポーツをもっと科学したいという整形外科、内科の先生が全国にたくさんいると思うので、結果を残したうえで『トレーナーというのは偉大な存在なんですよ』と伝えたいですね」
 まさに理想のスポーツ医療を追及しているわけだが、有馬院長には無理なことをしているつもりはないそうで、「私が陸上競技をやっていたときに、『こういった環境で競技生活を送れたらいいな』と思ったものをつくっている」とのこと。勝浦スポーツクラブが自立したスポーツ医療施設の先がけとなり、5年、10年後に有馬院長、祢津代表が成果報告のため全国を駆け回る。そんな姿を思わず想像してしまう。

[メモ]

医療法人社団 南州会 勝浦整形外科クリニック・勝浦スポーツクラブ

所在地/〒299-5225 千葉県勝浦市墨名485-246

TEL 0470-73-5956

利用時間/月〜土曜日10:00〜22:00、日曜日・祝日10:00〜18:00、年末年始・第3日曜日・施設点検日は休館

アクセス/JR勝浦駅より車で4分

設備/エアロバイク、トレッドミル、レジスタンストレーニングマシン各種、フリーウェイト機器、脚力測定器、呼気ガス分析器、水中体重計、メディカルチェック室、ロッカールーム